懐かしい声に一度瞬きをした間に全てが変わってしまったような気がする明け方、白砂を敷き詰めた浜辺から船が出ていくのを見ている。東に航路を取る午前四時、秒針が進む毎に立っている足元で靴のソールが磨り減って、おれたちはいつかこうしていられなくなることがわかっていた。夜が朝になり船は発着し、断続的な嗚咽を漏らしながらスクラップ・アンド・ビルドを繰り返して、くそったれな世界はおれたちを置いて完成していく。そうやって出来上がった天国に傷は要らないって最初から知ってたから、おまえは自分を必要としないその世界を愛してるんだって今少しだけ解ったような気がする。新築の天国、デスティネーションを配り終わったその場所で、山程の荷物を抱えた人々の間で、おれたちはスーツケース一つだって持っていないからお互いの手だけを握っていられた。でもそれだけで良いのなら、ここにいなければならない理由なんてなかった。だからその縁から飛び降りて、だけどまだおまえに触れていられることだけは永遠に未完成って呼ばせてくれよ。置いてきた懐かしいものに少しだけ涙腺が緩んで、だけどまだ見えないこの先があることを後悔していない。おまえはどこにいても、全てを凌駕して作り変えていくから。おまえの中に燃える火が、おれに行くべき道を確信させる。その火の明るさがあればどんな暗闇でも道が見える。加速する万能感がおれを傲慢にして地獄に舵を取らせても、その先にある永遠の向こうまでおまえを連れて行くよ。